一人が椅子に座っていた。
一人は動けなかった。
一人の頭の上に、冷たい雨が降り注ぐ。
千人が囲んでいた。
千人は一人の知り合いもいれば、たまたま通りかかっただけの者もいたし、友達もいた。
千人に共通していたのは、手に一本の針を持っていたことだけ。
一人はまだ動けなかった。
一人は足元をじっと見つめたまま、何時間も座っていた。
千人の一人は、手に持った針を強く握り、
座った一人の手の甲に、躊躇することなく、刺した。
千人の次の一人は、躊躇なく腿に刺した。
・ ・ ・ 刺した。
・ ・ ・ 刺した。
・ ・ ・ 刺した。
一本の針では人は死なない。
・ ・ ・ 刺した。
・ ・ ・ 刺した。
・ ・ ・ 刺した。
九百人目、
一本の針では人は死なない。
しかし。
霧雨の降る暗い場所で、一人は死んだ。
誰が殺したのか。 そもそも一人は殺されたのか。
誰も答えない。
霧は晴れそうにない。
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