木曜日, 1月 31, 2008

千本の針

一人が椅子に座っていた。

一人は動けなかった。 

一人の頭の上に、冷たい雨が降り注ぐ。


  千人が囲んでいた。

  千人は一人の知り合いもいれば、たまたま通りかかっただけの者もいたし、友達もいた。

  千人に共通していたのは、手に一本の針を持っていたことだけ。


一人はまだ動けなかった。

一人は足元をじっと見つめたまま、何時間も座っていた。

  
  千人の一人は、手に持った針を強く握り、

  座った一人の手の甲に、躊躇することなく、刺した。 


  千人の次の一人は、躊躇なく腿に刺した。

  ・ ・ ・ 刺した。

  ・ ・ ・ 刺した。

  ・ ・ ・ 刺した。

  一本の針では人は死なない。

  ・ ・ ・ 刺した。

  ・ ・ ・ 刺した。

  ・ ・ ・ 刺した。

  九百人目、

  一本の針では人は死なない。

  しかし。


霧雨の降る暗い場所で、一人は死んだ。



誰が殺したのか。 そもそも一人は殺されたのか。

誰も答えない。 


霧は晴れそうにない。



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